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第19回ママのねオンライン勉強会開催報告と録画配信のご案内 flower-icon

 1月25日(水)ゲストに廣瀬健さん(産院音々院長)をお招きし、

「これからの産科医療と助産師へのエール」というテーマで第19回ママのねオンライン勉強会を開催しました。2月末まで録画視聴ができます。録画がご覧になりたい方はこちら
https://rokuga-mamanone19.peatix.com/view

からお申込ください。


(今回は敬意を表して、健さんと呼ばせて頂いています)

 先ず産院音々のこれまでの歩みについてお話しくださいました。助産師主導の継続ケアは、助産師にとってはもちろんのこと、「すべての女性にとってひじょうに大切なことだと思っている。」と語られました。断片的でなく、その人の生き方に深く関わっていくようなケアができる助産師とそのようなケアを提供できる場を作らないといけないというのが産院音々の始まりでした。

 次に産科医療の集約化を背景に一時分娩休止に追い込まれた、長野県の上田産院での取り組みについて語って頂きました。お母さん達が中心になって10万人近くの署名を集め、健さんはその声に応えるべく集約化について世界中のデータを集めてその弊害を唱えました。折しも市長選が重なったことで、全国でも奇跡的に産院の存続に繋がった事例でした。

 その後助産師主導のお産の大切さを説くなかで、院内助産をすすめる動きが出てきました。助産師のケアが大事だということは医師の間でも共通認識であった一方で、お産をすべて助産師に任せることについては猛烈な反発がありました。そこで健さんはしっかりした医療のバックアップ体制があれば、助産師主導のお産は決して危険ではないことを示したデータを集めて全国を講演して周り、ロビー活動にも尽力されました。

「助産師は医師と対立するのではなくて、医師と共同しながらお母さん達を支えていく仕組みが大切だと。」健さんは言います。そのような想いから産院音々がスタートし、今健さんが感じていることは、

「お母さん達がどんどん変化していくのと同時に、助産師達がなにより生き生きと働くことができています。ただ長年医師の指示の元で勤務してきた助産師が、自らの判断で責任を持って医師と対等な立場でケアをすることは容易なことではありません。勤務助産師であっても、自分達で考え、動いて、時には医師と対等に議論するといった覚悟が必要だと思います。その主張が理にかなっことであれば、始めは反発を受けたとしても、たいていの医者達は耳を傾けるようになります。かつては病院でも助産師主導の分娩ケアが行われていました。病院やクリニックであっても、お母さんの前に立って、今自分が正しいと感じたことをきちんと主張する。そういうことが産科医療の体制を変えていく上で必要だと思います。」と語られました。

 

 また医療の本質についてもお話しくださいました。

「今の医療は、客観的なデータやガイドライインに沿って診断するというやり方です。これはリスクマネジメントとして行われています。でもそれでは本当の医者や助産師にはなれないです。目の前にいる人のニーズは何なのかということを専門家としてきちんと把握できると同時に、その人の想いを受け止めていかないとだめなんです。治療を受けるかどうかの決定というのは、お母さんがすることです。その意思決定を支援するのが助産師です。医者はその意思決定が成されたのを受けてはじめて医療行為を合法的にできるんです。これが医療の本質なのです。これは倫理的にひじょうに大事なことです。医療というのは患者さんの同意の元で行うという大原則を無視しているような環境に同調している助産師にも責任があります。そこを考えてもらえれば、自分が取るべき行動が見えてくると思います。」

 続いて助産師の地域貢献についてお話しくださいました。

「助産師はお産という人生でとりわけ重要なイベントに関わるという特権があります。お産を通じて、その人の人生に関わっていくので、やはり地域に根ざしていくということが大切になってきます。様々なライフステージ、色々な個性の助産師が集まって仲間同士支えあって助産はするものです。いいお産ができたらいいというだけでなく、地域に根ざして貢献できる助産師を増やしたいというのが産院音々の今の課題でもあります。」

最後にこれからの産科医療について、産科医の立場からお話し頂きました。

「女性を中心に考えると継続ケアは本質だと思っています。そのために助産師は助産師だけでお産を抱えこむのではなく、医療と連携することがお母さんのためにもなります。助産師は助産哲学を持ちながら、他職種の人たちとコミュニケーションをとって個人的な信頼関係を作っていくための努力をしなくちゃいけません。」

 どのメッセージも、熱いエールとして助産師の皆さん、そして女性達に届いたのではないでしょうか。

以下参加者の方の感想の一部です(掲載可のもののみ)

・医師の立場で、助産師の継続ケアの重要性と女性中心のケアを語れる方のお話を初めて聞かせていただきました。医師と助産師が対等な関係で、女性のために上手く連携していくために、助産師がどういう態度・気持ちで医師と向き合うべきなのかも、はっきりと述べていただき、目が覚める思いでした。それをしないのは「助産師の怠慢」という言葉。正しくその通りだと感じました。今回は違った角度から助産哲学を学ばせていただいた気がします。ありがとうございました。

・まずお母さんを中心に助産師や医師、他職種がいること、お母さんが意思決定をすることをサポートするのが助産師の役割であるということが印象的でした。そして自立した助産師になるために、お母さんの気持ちを汲み取り、医師を尊重しながらもお母さんの考えや自分の考えを主張をするということが、今の自分に欠けていて、身につけたいけどとても努力の必要な部分であると思いました。
私は現在、病院やクリニックでご出産される方の産前と産後の継続ケアを行っています。お産のサポートだけ抜けている状況ですが、いつかお産もサポートして、マイ助産師としてちゃんと一人ひとりの女性を産前から一生サポートしていきたいと思っています。廣瀬さんにお産だけ取って満足してはいけないと言われて、今の自分の活動の仕方でも喜んでくださる方がいるなら、誇りをもって活動しようと思いました。でも、いつかお産もサポートできる未来を見据えて頑張りたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

・助産師としての倫理の話は心強く思いました。医師としての倫理も同じだということ。それはご自身の倫理観に基づいて行動をされていた廣瀬健さんだからこそはっきりと言っておられたのかもしれないと思いつつ、医師をもっと信頼していいという言葉もその通りだと思いました。助産師には多くのバイアスがかかっているということもその通りなのだと思います。助産師自身も気付いていないバイアスを出産ケア政策会議では気付かせるよう働きかけをしているという面も大きいということも思いました。そして、今後の予測として、助産師だけで完結するお産はないということ、助産師も変わらないといけないこと、その覚悟をどうやったら持てるのかということなのだと思いますが、それはやはり倫理観、女性を尊重し対等なパートナーとして寄り添うことだということもわかっているのに。後は行動あるのみだと思うので、頑張ります。

・元助産院勤務助産師、今は助産師教育に携わっています。産み育てる人たちのために助産師はどんな立場で何をすべきなのか考えさせられました。今の助産師(看護師も)は、学生時代からとにかくタイムリーな報連相が求められます。そこに自分の助産哲学や科学的根拠に基づいた判断があるべきですが、なかなか学校でも現場でもそれが育ちにくい環境にあるのかもしれません。
お母さんたちのために、医師と対等に議論ができる、自立した助産師を育てたい。そのために必要なのは、自らの助産哲学を持つこと、確かな知識と技を身に付け常に磨くこと、そして信頼関係が築けるようなコミュニケーション能力を持つこと。そして、誰もが今居るところで自分で判断してそれを伝える、そういう文化を作っていくことが必要なのだと考えさせられました。
「自分のことだけ考えていると必ず壁にぶち当たる。みんなで支え合うことが大事。助産師もお母さんもいろんな個性があっていい」というお話しも印象に残りました。本当にそうですね。
リアルタイムでは参加できませんでしたが、録画が視聴できて良かったです。企画と運営ありがとうございました。

ゲスト 廣瀬 健さん 

長野県上田市出身。東京大学教養学部中退、その後ボランティア活動等した後に36歳で信州大学医学部入学。在学中は現代フランス思想の研究をしながらターミナルケア研究会を立ち上げました。 産婦人科医になってから、カンガルーケアに出会い衝撃を受けました。出産、母乳育児について真剣に取り組む中で、お母さんや赤ちゃんにとっての、妊娠・出産・その後の母乳育児の持つ重要な意味に気付きました。出産をめぐる一連の出来事は本質的な意味を持つものであると強く感じています。それは、生殖医療の操作的な枠組みを乗り越えていく広がりと、出産に関する医学的理解の底を突き抜ける深さをもつイベントです。 8人の子供をあちこちで育ててきましたが、自分の生き方への反省を込めて、お産に関わるお父さんやお母さんにとって赤ちゃんとの出会いが持つ深い意味を取り戻したいと感じています。 上田市立産婦人科病院長などを務めたのちに、現在は産院音々院長を就任しています。 

軽井沢西部総合病院 https://miyotahp.jp/

院内産院音々 https://miyotahp.jp/nene/ 院長