2023.5.2
出産ケア政策会議は、4月27日(木)に「デジタル化された『マタニティケア検索・予約システム』の導入を求める提言書」をこども家庭庁に提出し、「正常分娩を保険適用の対象とする『出産保険』制度の創設を求める提言書」を厚生労働省に提出後、記者会見を行いました。本提言書を作成するにあたり、クリニックの産科医師や弁護士からの助言をいただきました。
この【報告③】では提言書提出後に開催しました記者会見の様子について皆様にご報告をいたします。
厚生労働省本省庁舎(中央合同庁舎第5号館)で、記者会見を開催いたしました。
出産ケア政策会議共同代表の古宇田より提言書提出の報告、共同代表の日隈より出産ケア政策会議の説明があったあと、今回の提言書の内容を母親の立場である3人から説明がありました。
北海道から母親の立場で参加した高橋宏美より、今回の提言の趣旨として、
「自由民主党・出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」の提言の中で示された、出産(正常分娩)に公的保険を適用した上で、自己負担が生じないようにする仕組み
の導入、つまり「お財布のいらない出産」は、私たち母親にとって朗報であり、歓迎すべきことである。
「お財布のいらない出産」となる仕組みと同時に「妊娠がわかったときから、『どこで』『誰から』『どのようなケアを』受けられるのかを検索・予約できる」仕組みを導入することを強く望む。私たち母親は日常生活の中で、あらゆるサービスが検索・
予約できることが当たり前の社会で暮らしている。しかし、現行の制度では、産後ケアを産前に予約することすらできない。これこそ今まさに私たち母親が生きている世界とは「次元の異なる」アナログな世界である。
「次元の異なる」少子化対策と銘打つのであれば、ぜひともデジタル化された「マタニティケア検索・予約システム」を導入し、どこで、どの医師と、どの助産師から、どのようなケアを受けるかを妊産婦自身がオンラインでカスタマイズもできるようにしていただきたい。
と説明がありました。
静岡から母親の立場で参加した平田砂知枝より、今回の提言の1)~5)の説明がありました。
1)正常分娩を保険適用の対象とする「出産保険」制度の創設
正常分娩は病気やけがではないなどの理由から現在は保険が適用されず、「出産育児一時金」で支援されている。しかし、出産費用には地域間格差があり、出産育児一時金で出産費用を賄える地域もあれば賄えない地域もある。出産は、先の読めない不安だらけの旅のスタート地点のようなものである。スタート地点がどこであろうと、すべての旅人に「この旅に最低限必要なもの」を手渡したら、誰もが安心して旅立てるのではないだろうか。正常分娩を保険適用の対象とすることで、最低限必要となる出産費用を全国一律化し、子育て世代の経済的負担を軽減し、安心して出産・子育てができる環境を整えるべきである。
2)出産費用の自己負担ゼロ
新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ情勢の影響等により、子育て世代は厳しい生活状況に追い込まれている。正常分娩を保険適用の対象とした場合、現行の制度では3 割を自己負担することになるが、この自己負担分をゼロとすべきである。乳幼児等医療費助成制度と同様に3割分を自治体が助成するという制度を創設すべきである。
3)安全性を配慮した上での無痛分娩の保険適用
無痛分娩を希望する妊婦は増えているが、無痛分娩は通常の分娩に比べて薬剤費や人件費がかかるため高額になる。しかし、現行の制度では保険が適用できない。そのため、妊産婦に経済的負担となっている。近年、無痛分娩に伴う事故が増加していることを鑑み、安全性への配慮を十分行ったうえで、妊産婦の経済的負担を緩和するために無痛分娩も保険適用とすべきである。
4)「出産難民」を出さないための産科医療機関への支援
ここ10 年ほどで産科医不足と病院の集約化が進み、それと共に産科診療所(クリニック)の減少と助産所(助産院)の分娩中止や廃院が進行している。このままでは、全国の各地域で出産難民が発生すると考えられている。正常分娩の保険適用によって出産費用が全国一律となることにより、都市部の産科診療所はさらに経営困難に追い込まれ、分娩中止を加速させることが予想される。また、それに伴い、産科診療所を嘱託医としている助産所も分娩中止とせざるを得なくなる。出産難民を出さないために、産科診療所や助産所といった産科医療機関への支援を行うべきである。
5)妊産婦の選択で、個室使用など保険外適用も可能に
妊産婦の多様なニーズに応えるために、差額ベッド、食事、マッサージなどの保険外適用を可能にしたほうがよい。現行の保険外併用療養費制度と同様の仕組みにより、妊産婦の希望に沿った柔軟な対応をできるようにすべきである。
滋賀から母親の立場で参加した田中由佳より、今回の提言の6)の説明がありました。
6)デジタル化された「マタニティケア検索・予約システム」の導入
今の若い女性は、日常生活の中で、あらゆるサービスが検索・予約できることを当たり前とする社会で暮らしている。たとえば、美容院を予約する際には、地域の美容院がほぼ網羅されている中から検索できるし、美容院だけでなく美容師やサービスの組み合わせも予約できるようになっている。これと同じように、妊娠がわかった時点ですぐに地域の産科医療機関の出産費用・サービス内容等の情報を検索でき、サービスを適切に選択できることは、出産を考える女性に安心と利便性を提供し、出産の支援策として重要である。
しかし、現行の制度では、自分の地域でどのようなサービスを受けることができるのかが十分に可視化されていない。また、産後ケアを産前に予約することすらできないなど、産後の不安材料を増やしているようなものである。今の若い女性の生活様式に合わせた「マタニティケア検索・予約システム」の導入は急務である。
海外では、マタニティケアのIT 化(デジタル化)が進められ、産科医や助産師が入力した記録を妊産婦がスマートフォンの画面で閲覧でき、また、自分の希望や選択を妊産婦自身がスマートフォンの画面で入力し、産科医や助産師と情報共有することができる。日本でも、どこで、どの医師と、どの助産師から、どのようなケアを受けるかを妊産婦自身がオンラインでカスタマイズもできるデジタルシステムの導入を少子化対策として導入すべきである。
その後、共同代表の古宇田よりマタニティケア検索・予約システムの説明がありました。
このマタニティケア検索・予約システムは、産前から予約できることもシステムの特徴であり、一番の特徴は妊産婦自身がオンラインでカスタマイズできるということ、そして妊産婦さん自身が主体的に出産に取り組むことができることが期待される。
現在、産前・出産・産後の情報が分断されているが、それを一続きに情報を得ることができるということも特徴である。
出産費用の保険適用化というのは母親にとって歓迎すべきことですが、その上で若い女性、これから産む方たちのニーズに合わせたシステムを保険制度の中に導入していただくなら、これから産む人たちが「国が私たちを支えてくれる」という実感をもつことができる。
今日ここにお越しくださった報道関係者の皆様には、ぜひこの提言内容をより多くの皆様に周知いただきたい。
このような内容の説明がありました。
その後報道陣からは、①提言書提出後の実際の反応はどうだったか、②海外でそのシステムを取り入れている国はどのような国があるか、③保険適用のメリットについて、④母親が選択する際の基準について、⑤地域の診療所の産婦人科医が高齢化に伴う問題について、の質問がありました。
①については、前の記事の【報告①②】をご参照ください。
②については、ニュージーランドでは、産前・出産・産後の情報すべてが見られること、「自分がこういうことを希望した」ということも情報に残り、閲覧・確認できるということが紹介されました。
フランス、ドイツ、オランダなどEU諸国では、医師・患者間でデジタル化された情報を共有できるようになっています。
③については、現状では出産に伴う支払いが、出産が終わるまで分からず、見える化されていないために将来の設計ができないこと。もしも保険適用により支払額が見える化し、将来設計を決められるようになれば安心して子どもを産むことができるようになる、という説明がありました。
④については、
どのお母さんにも共通しているのは「身近な地域で産みたい」ということ。ホテルを予約しないとそこで産めないということも起きている。地域の助産所と診療所が連携していくこと、そして、「どんなサービスが得られるのか」という情報をお母さんたちが得て選択できるシステムが整うことで、身近な地域でケアを受けられるようになる。ハイリスク出産の方は大きな病院でケアを受けることが大事であり、集約化されることはよいが、ローリスク出産の方まで集約化されてしまうと身近な手厚いケアが受けられなくなってしまう。身近な手厚いケアを残すために、まずはお母さんたちが地域でどんなケアを受けられるかを知ってもらうこと、そして地域の助産所とクリニックが連携すること、それを地域全体、市町村で支えることが大切という説明がありました。
共同代表の日隈からは、
地方の妊産婦は本当に離れたところの病院の近くに前もって入院し、陣痛促進剤で陣痛を起こして出産するという状況がここ10年は続いているのが現状。そうすると、家族が離れて新しいいのちを迎えるという状況になる。家族とともに新しいいのちを迎えるということ、安心して妊娠し産み育てることのできるシステムを整え、女性たちが選べるように情報提供するということは大事、と発言がありました。
井上清成弁護士からは、産科医不足で病院が集約化することは当然のことであるが、集約化された病院の使命は、異常な分娩、リスクの高い分娩を扱うことが役割である。しかし実際は大きな病院がローリスク分娩を多く扱っており、そちらで収益をあげているのはゆがんだ構造だと言える。
ローリスク分娩は、地域に根差した助産所やクリニックに分担していくことが大事だが、そこがうまくできていないのが現状。クリニックは10数年で30%以上、助産所は80%以上減った。今回の保険適用など検討する際に、きちんと地域において、集中するところ、分散するところを分けていくことが大事である。このことは地域の活性化、少子化対策につながっていくと考えており、これが前提の上で今回の提言が作られている、と説明がありました。
日本産婦人科協会事務局長の池下久弥産婦人科医からは、制度が変更するたびに地域の施設がどんどん減っている。制度が変更する際には、それに伴い2か月間無収入ということが起こりえるため、受け取り代理制度をつくるなど手当はしっかりしてほしい。例えば助産所の場合は、15年前は738施設あったが、88%減って現在は90施設くらいしかない。これは嘱託医制度ができたことも大きな原因である。制度変更により廃業に追い込まれないようにしてほしい、というお話がありました。
今後、出産に伴う保険制度が変更になるかどうかはまだ確定していませんが、母親の声を届けられたことに置いて大きな意義があったと考えています。
今回のこの場に来てくださいました、日本産婦人科協会理事の堀口貞夫氏(産婦人科医、元愛育病院院長)、日本産婦人科協会事務局長の池下久弥氏(産婦人科医)、東京都助産師会会長の宗祥子氏(助産師)、弁護士の井上清成氏に心から御礼申し上げます。
また、推薦人になってくださいました、静岡大学名誉教授の舩橋惠子氏、北海道助産師会会長の高室典子氏(助産師)、自然分娩推進協会代表の荒堀憲二氏(産婦人科医)にも厚く御礼を申し上げます。
今後とも、母親の声を中心に据えた政策提言をして行く出産ケア政策会議へのご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。