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第9回 ママのねオンライン勉強会 flower-icon

2021年10月10日に第9回ママのねオンライン勉強会が開催されました。

★テーマ:「新WHOガイドライン作成に携わった永井さんのお話を聴いて、お産の現場を見直そう」
★ゲスト:永井真理さん(国立国際医療研究センター 国際医療協力局 国際連携専門職・医師)
★詳細:https://mamanone09.peatix.com/



2018年、WHO(世界保健機関)は22年ぶりに出産に関する新しいガイドラインを発行しました。

この新ガイドラインの特徴は、「母子の安全」という観点に加えて、「a positive childbirth experience」「ポジティブな出産体験」という言葉が入っているように、

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出産の当事者である女性にとって出産体験がポジティブなものであったかどうか
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という観点から作成されていることにあります。

勉強会は

1)女性にとって「ポジティブな出産体験」とはどのようなものなのかを、女性の出産体験談を聴くことで考える。
2)新WHOガイドラインが「ポジティブな出産体験」に注目した背景についての説明。
3)「ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」を広めるために新WHOガイドラインを活用する方法を提案。
4)永井さんのお話  
・WHO職員として各国でガイドラインの普及のために尽力されたご経験をお話しいただきました。  
・そのご経験を基に、ポジティブな出産体験のための分娩期ケアを日本で普及するための課題と、その課題を乗り越えるためのヒントについてお話しいただきました。
5)質疑応答の順に展開されました。終了後、地域ごとにお部屋を分けて情報交換をする時間(終了は自由解散)を設けました。


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永井真理さんからWHOのメンバーとして様々な国で経験されたことをお話してくださいました。

1.途上国でガイドラインを導入するための病院での研修.パワポのプレゼン資料を使わず講義もせず、その病院で分娩に関わる職業の方全員(産婦人科医、助産師、新生児科医、その他スタッフなど10人くらいが多い)に集まっていただく。そして、分娩前後の30分から1時間に、実際にどうしているかを再現していただき、終わった後にその行動の理由やエビデンスについて質問をする。その際に答えを言わずに、皆さんからいろいろな答えが出てくるまで、ぐっと我慢する。「なぜこれをやっているのか?」と立ち止まるきっかけになり、実際にその場で分娩室の模様替えをし始めることもある。


沢山研修を受けても行動に結びつかない、ガイドラインを出しても意味がない、という状況をWHOも経験してきており、資料を使わないこのような研修をしている。


WHOの推奨項目の一つに、「早期母子接触:合併症がない新生児は、低体温を予防し母乳育児を促進するため、出生直後1時間は母親と肌と肌を常にじかに合わせた状態で過ごすことが推奨される。」とあるが、それを実際にできるように、「産まれたら産婦の胸の上に赤ちゃんを置く」ということを、まるで野球やテニスの素振りのように、人形や(女性の体部の代わりに)リュックサックを使って「考えずに身体が動く」まで練習したりすることもある。


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2.研修をする前に.このような研修をする前に、病院長や、その国の厚生労働省の母子保健局のようなトップの人とまず話をする。

「この研修をやることで、この国、あるいは施設がどうよくなるのか、どんな問題が解決するか」それを伝えて、「いいねいいね!」と賛同をもらってから研修をする。

賛同をもらうためには、今トップの人たちが何に困っているのかを調べる必要がある。そして、「あなたのお困りごとに、この研修はこんなふうに役立ちますよ」と説明する。

組織や地域によって違うかもしれないが、キーとなる人を探す。その際に気をつけることが、自分の仲間を見つけるということ。仲間がいなければ自分が燃え尽きてしまう。

かつ「周りの人が一緒にやりたい」と思えなくなると広がらない。ポジティブな出産体験ができるためのケアを提供できるようになりたい、と思っている人を一人でも見つけること。


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3.立ちはだかる制約.ポジティブな出産体験ができない制約が施設や組織であるとすれば、なぜそのような制約があるのか、書き出してみる。例えば、分娩室入室後30分以内に分娩することがその病院の方針とすれば、それはなぜなのか。経営上の理由か、職員の配置の問題が理由か、予測して書き出す。.そして、そこに居る人たちで考えてみる。考えても分からないときは、上の人に聞いてみる。もしも保険の点数など経営上の理由であれば、それに代わる何かができないか。他のことをやることで、収益が同じになるようなことできないのか。

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4.エビデンスにもとづくケア、その上で女性中心のケア.女性中心のケアというのが具体的にどういうものか一人一人違う。感情などのソフトの面ではなく、エビデンスのある確実な医療介入、その部分をしっかりおさえるのは大前提。「そのうえで」女性が大切にされていると感じる形でケアを提供すること。研修でもそこを努力した。エビデンスがないケアを提供することは、その女性に対しては損になるケアをしていることもある。

ガイドラインがいいと言ってるからといって、それをそのまま当てはめるのではなく、医療チームでひとつひとつ、考えること。医療施設のチームで一緒に考えるところから始めること、助産師だけでなく一緒に仕事している人を全員まきこむこと、それが実際に何かが変わるプロセスになる。

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5.混合病棟の課題混合病棟ならば、どうすれば助産師が本来の助産の仕事に集中できるのか、看護師、師長、医師など一緒に仕事をしている人をまきこんで考えていく。そうでなければ助産師が燃え尽きてしまうこともある。


一つの施設では難しかったり、上司の理解が得られない場合は、地理的な広さを持って考える。その地域の女性が願うお産の方法を実践している他の施設と手を組んでいくなど、広い視野で解決していくのも良いのではないか。.女性にとって望むお産はそれぞれ違う。無痛分娩をしたい女性にお勧めする医療施設。医療介入をしないお産をしたい女性にお勧めする施設。それぞれの望みにエビデンスがある以上、その方に一番良いところを紹介することはとても大事なこと。その地域の中で多職種がつながって、互いに相談して女性に提案することをしていく。

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6.保健師と一緒にすすむ.保健師さんの力は大きく、地域全体をマクロに見ることができる。地域の産婦さんのニーズに合ったところで産めるように連携していく。.将来的にはこうあってほしいという社会があり、そうなるためには何をしたらいいか。助産師が何をしているか。保健師が何をしているか。それを書き出してみる。仕事が重なっている部分、どちらもやっていない部分。それを見える形にして一緒に考えていくこと。

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7.嘱託医の課題.助産院での嘱託医が見つからないという課題。医師は正常分娩の履修時間が少なく異常から分娩経過を見ることも多い。どのような役割を医師に求めるのか、それを整理する。また、正常分娩についての理解、レセプターを持っている医師を探すことはとても大事。.カンボジアの経験で、ある助産院からある県立病院に産婦さんを送ると医師は助産師を叱るということがあった。両者の想いを第三者として聴いてみたら「悪気はなかった」。医師がその場所に行く出張を第三者としてアレンジしたら、どういう環境でその助産師が頑張っているのかということが医師に分かり、助産師をどうサポートしようかという話になった。電話番号を交換したり、たまに状況を見に行くよ、という話になった。第3者の存在はとても大事。

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8.ジグソーパズルひとりひとり女性も含めて医療関係者も含めて、自分の得意不得意、自分のやりたいこと、あまりできないことなどが違うので、ポジティブな出産体験ができる環境をつくるために、自分はこの場所でこんなことをできる、というのを考える。ひとりひとりがジグソーパズルのひとつのピースで、全部組み合わされば一つの絵ができあがる。.ジクソーパズルがはまるその面以外は考え方が違うかもしれないが、ピコッとはまればその次にまたはまる人が見つかる。そういう経験を今までしてきている。辛抱づよくピコッとはまる場所をひとりひとりつくっていく。一歩を踏み出していく。

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9.WHOガイドライン推奨項目について.推奨項目はあまり変更することができないが、本当は色々な理由を言いたい。それを注釈にいれている。推奨項目だけ見るとゼロか1か、のような表現に感じるかもしれないが、注釈を読むとゼロか1じゃないということがよく分かっていただける。

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《皆様からのご感想》


◎今日の講義では病院では変わらないかもな、と諦めかけていた気持ちが私たちが動かなくてどうする!と奮起できる内容でした。ポジティブなお産がどこで産むとしてもできる社会でありたいと強く思います。そのために、実践レベルで何が今できるのか考えた時、同じ妊娠期から分娩・産後を見ている助産師と医師だけでも色んなお互いの知らない部分があるのだなと感じました。(他職種含め)お互いをまずしっかり知り、課題を明確化して改善できるよう取り組んでいくことが今できることかと感じました。


◎ 当事者同士だけでの解決ではなくて、第3者のような方を含め、同じ目標のために自分の役割は?あちらはどうなってる?と互いに関心を寄せ、ケア提供の場所などは違えど目標を共にする同志となれる場・機会つくりから必要だと実感しました.


◎ エビデンスのあるケアの大切さを実感しました。ポジィティブな出産体験になるようにするためには、助産師が女性を大切にし、そこには、エビデンスに基づくケアがあることを学ぶことができました。ポジティブなお産を病院で行われるのが今の日本に必要なことなのではないかなと思います。急に、出産で初めて助産師と会って、そこから出産に臨むとどうしてもそのような体験ができないと思われます。どうすればいいのか、すごく考えさせられました。


◎ 永井さんの人徳を感じながらの研修でした。雲の上にいる方のように思っていましたが、実際の声を聞きいていると、親しみやすい感覚で、とても解りやすく話しをきかせていただけたと思います。具体例では、身近に感じる話が多くあり、とても参考になりました。仕事を続けるにも常に葛藤がありますが、自分のいる場所でパズルのピースを合わすように、粘り強く仲間になる人を集めて活動できればと思いました。


◎ ウルトラCの変革がもしあるとしたら、それは自分たちが起こそうと意識して起こすのではなく、目標に向けての地道な行動や誠意のある姿勢や諦めない心や、仲間作りや相手を尊重する姿勢を継続することで、起こるのかもしれない。自分たちの思いを丁寧に伝えていく事、仲間を増やしていく事、自分自身がこつこつと実践する事を続けていくことでいつのまにかお産の現場が変わるかもしれない、と希望を感じさせていただけたお話でした。ありがとうございました。


◎ 永井さんのお話の中では、意見が違う人との分かち合いの方法や、アプローチの仕方を学ぶ事ができました。パズルのピースを探すというフレーズが心に響きました。


◎ 現場の変化について、頭だけの知識ではなく、病院の設備や勤務体制、スタッフの考え方などを考慮した上で少しづつお互いが話し合って改善方法を検討する大切さと、その難しさも感じました。知識としての提供だけじゃ現場は変わらないため、デモストレーションを通してスタッフに考えてもらっているという話がとても興味深く感じました。また、自然なお産だけが良いわけではなく、お母さんたちが主体となって出産しているのか、納得して医療行為を受けているのかも重要なポイントになる事、考え方を極端にせず、一人一人のピースをはめていくようなイメージでみんなで一つを作り上げていくには本当に大切な事ですし、根気のいる事と聞いて物事を変えていくには時間も辛抱強さも大切だなと実感しました。仕事だけではなく、普段の生活からそのように相手の気持ちを確認する・説明するを意識しておこうと思います。


◎ 大切にされていると経験できるお産をやっていきたいと思った。上から教えるのではなく、相手に自分で気づいてもらうよう問いかける質問力、コーチングの能力はどんな場面でも活用できると素晴らしいと思いました。本当に定着させようとすると、実践を伴った気づきがないと難しいと感じました。


◎ 出産体験のお話、とても感銘を受けました。辛い経験も含めてお話してくださり本当にありがとうございました。また、永井先生のガイドラインを実践するための方法例についてのお話も とても勉強になりました。体験談をきいて、凄く共感できたし、活動を続ける意欲を新たにできました。


◎ 出産体験のお話を聞かせていただき、出産というのが、女性の一生に関わる本当に重要な体験であることを知ることができました。2人の出産の体験で、その子に対しての愛着の形成や育児に向かう気持ち、ここまで変わってくるのかと正直驚きました。出産をお母さんが主体的に行える、お母さんが人として大切にされたことを実感できるような関わりを助産師として行いたいと強く思いました。



◎ 勉強会終了後の地域ごとに分かれたズーム、個人的にすっごくいい時間でした!


◎最終のグループワークでは、地域との連携の現状やママとの繋がりについてなど色んな人の視点から意見交換でき、とても有意義で楽しい時間を過ごすことができました。本当に貴重な時間をありがとうございました!


◎他県の 意欲的な助産師さんと話せて、考えさせられました。

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永井さんをはじめ、お話してくださいました皆様、ご参加くださいました皆様に心からの感謝を申し上げます。


WHOでは助産師主導の継続ケアモデルを提供することを推奨しています。

私たち出産ケア政策会議が提案する「LMC制度」は、妊娠した女性が選んだマタニティ継続ケア担当責任者(LMC)が、妊娠初期から、陣痛・出産、産後(6か月~1年)のケアを継続して提供するための制度です。


地道にパズルをひとつひとつ「ピコッ」とはめていき、LMC制度を日本につくっていけるよう、今後とも皆様のご支援をどうぞよろしくお願いいたします。



ゲスト 永井 真理(ながい・まり)氏

国立国際医療研究センター国際医療協力局専門職
元・WHO西太平洋地域事務局リプロダクティブ・妊産婦・新生児・小児・思春期部門 医官
1992年東北大医学部卒。国境なき医師団などで紛争地の医療活動後,2004年米ジョンズホプキンス公衆衛生大学院修士課程修了。博士(医学)。15年よりWHO西太平洋地域事務局に勤務し,妊産婦と新生児に関する各種WHOガイドライン作成に携わった。18年より国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国際医療協力局 局員。専門は国際保健。